心臓疾患の患者さんに対するリハビリテーション
公開日:2024.01.31
文:中山 奈保子
作業療法士(教育学修士)
心臓疾患患者が抱える日常生活の不安
心不全、心筋梗塞、狭心症をはじめとした心臓疾患の患者さんに対するリハビリテーションでは、身体的・心理的・社会的・ 職業的状態を改善するのはもちろんのこと、再発・再入院の防止を念頭に一人ひとりの状態に応じた運動療法や日常生活にかんする相談指導を行います。
心臓の機能が低下し、一時的に安静を強いられた患者さんやその家族は、「病前はなにげなくおこなっていた動作や活動が心臓に負担をかけないだろうか」「運動はどの程度までなら可能なのだろうか」といった不安を抱えることが少なくありません。日常生活への影響も可能性も懸念されるため、作業療法では、個々が思い描くライフスタイル(:衣・食・住だけでなく価値観・習慣などを含めた個人の生き方)や、健康感に影響を与える作業に焦点をあてた支援を提供するのが、重要な視点のひとつです。
患者さんやその家族が安心してそれぞれの生活を維持するためには、基本的日常生活活動において心臓を守るための基準(よりどころ)を多職種連携のなかで具体的に共有することが欠かせません。作業療法士国家試験では、以下のような問題が出題されています。
作業療法士国家試験では、進行性といわれる難病のなかでもALS:筋萎縮性側索硬化症(amyotrophic lateral sclerosis)について、以下のような問題が出題されています。
《問題》心不全患者への生活指導で適切なのはどれか
【作業療法士】第58回 午前30
心不全患者への生活指導で適切なのはどれか。2つ選べ。
<選択肢>
- 1.1日4L飲水する。
- 2.食事の直後に入浴する
- 3.入浴は44℃の湯に浸かる。
- 4.冬季には肌の露出を少なくする。
- 5.1日の塩分摂取量を6g未満に制限する。
解答と解説
正解:4・5
心不全患者さんの基本的日常生活活動に関しての出題です。
選択肢[1][2][3]は水分補給と入浴に関する誤った生活指導。
水分に関しては、医師から量の指示がない限りは厳格な基準はないものの、口が渇く度に大量の水分を一気に摂取しないよう注意が必要です(口の渇きを感じにくい場合などは特に要注意)。
そして、日常生活活動のなかでも最も身体に負担をかける活動のひとつである入浴は、思わぬ事故や体調の変化が起きやすい場面。湯船に浸かることによって心臓に負担をかけるため、食事や運動の後の血流がさかんになっているタイミングは避け、40〜41度のお湯に10分ほど浸かる(半座位浴)のが良いとされています。
正解の[4][5]は、心臓に負荷がかかりやすい日常生活行動への注意を示唆するもの。
食事では、過度な塩分の摂りすぎに注意しなければなりません。塩分は1日6g未満に抑えるよう推奨されています(重症の場合はさらに厳格な制限を要する)。
また、寒暖差が大きい場所を行き来し血圧が大きく変動することによって起こるヒートショックも心臓に深刻なダメージを与えます。入浴場面以外にも冬場は肌の露出を少なくし、温度差による急激な血管の収縮が起きないよう配慮します。
実務での活かし方~心臓疾患患者への作業療法的アプローチ~
食事や入浴、更衣に対する作業療法といえば、詳細な作業分析と工程ごとの関節運動や姿勢の保持や変換、感覚・知覚、認知機能の特性の評価などがまず思い浮かびます。加えて、今回取り上げた過去問のような、患者さんが自分の身体を自分で守るための知識や技術(=再発予防のための疾患管理、セルフマネジメント能力)を評価する視点も欠かせない視点です。
また、心疾患のリハビリテーションでは、朝起きてから夜寝るまでの動作・活動のバラバラに見るだけではなく、その活動の前後にどのような活動があるのか、1日を通してどれだけ身体に負担をかけるのかなど1日・1週間単位で見守る視点も重要です。仕事と休養のバランスは適切か、睡眠は十分にとれているか、ストレスを発散する機会はあるかなど患者さんの生活を切れ目なく見守っていきましょう。
中山 奈保子(なかやま なおこ)
作業療法士(教育学修士)。
1998年作業療法士免許取得後、宮城・福島県内の医療施設(主に身体障害・老年期障害)に勤務。
現職は作業療法士養成校専任教員。2011年東日本大震災で被災したことを期に、災害を乗り越える親子の暮らしを記録・発信する団体「三陸こざかなネット」を発足し、被災後の日常や幼くして被災した子どもによる「災害の伝承」をテーマに執筆・講演活動を行っている。
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