理学療法士と作業療法士の違いとは?仕事内容や給料、就職先を解説
公開日:2021.05.13 更新日:2022.07.26
文:rana(理学療法士)
理学療法士(PT)と作業療法士(OT)は、どちらも医療系の国家資格です。各協会の会員数で比較すると、理学療法士協会の会員数は129,875人(2021年3月末現在)、作業療法士協会の会員数は62,294人(2020年3月時点)であり、理学療法士の人数が作業療法士の約2倍となっています。
どちらもリハビリに従事するセラピストですが、それぞれに有している知識や治療方法などに違いがあるため、リハビリをする対象や働く施設の傾向は異なります。
今回はそんな「理学療法士と作業療法士の共通点と違い」について詳しくお伝えしましょう。
目次
理学療法士と作業療法士の5つの共通点
患者さんから「理学療法士と作業療法士は何が違うの」と聞かれたことはありませんか?
理学療法士と作業療法士を混同されるのは、次のような共通点があるからかもしれません。
□ 医療系の国家資格である
□ 資格取得には指定された養成校にて3年以上学び、国家試験に合格する必要がある
□ 働く施設は医療分野や介護分野が主である
□ 障がいがある人に対して、生活能力が向上できるようにリハビリを行う
□ リハビリを行うには医師の指示が必要
ちなみに理学療法士と作業療法士の給料にはほとんど差がなく、求人をみても同等の額で設定されている施設が多く見られます。厚生労働省の調査「賃金構造基本統計調査」でも、理学療法士と作業療法士のデータは同一のデータとなっています。
そのため、理学療法士か作業療法士のどっちがいいか、目指す道を迷っているならば、給料面よりも自分のやりたい分野を優先して決めるのがよいでしょう。
国家試験合格率から見る難易度の違い
理学療法士と作業療法士の国家試験問題は、解剖学や生理学といった基礎内容である「共通問題」と、それぞれの専門に特化した「専門分野」に分けられます。専門問題は内容が異なるため、一概にどちらが難しいとは言い切れません。
次の表は、理学療法士と作業療法士の過去4年間の国家試験合格率です。
年 | 理学療法士 | 作業療法士 |
---|---|---|
2018 | 81.4% | 76.2% |
2019 | 85.8% | 71.3% |
2020 | 86.4% | 87.3% |
2021 | 79.0% | 81.3% |
このように過去には理学療法士の合格率の方が高い傾向にありましたが、2020年・2021年の結果では大きな差はありません。
では、理学療法士と作業療法士ではどのような点が違うのでしょうか。
①理学療法士と作業療法士は「専門分野」が違う
理学療法士と作業療法士の大きな違いは、その専門性にあります。まずは、それぞれが専門とする分野について、確認してみましょう。
理学療法士は基本的動作、身体機能面の専門家
理学療法士は、身体に障がいがある人に対し、起き上がる、立つ、歩くといった基本的な動作の改善を目標にリハビリを行います。「動作の専門家」として、高齢者や小児の基本動作からスポーツ選手の競技動作まで、幅広く対応するのが特徴です。
身体の土台となる部分、大きな動作に対応するのが理学療法士の専門分野といえます。
作業療法士は応用動作、日常生活動作の専門家
作業療法士は、身体に障がいがある人に対し、食事、更衣、入浴といった日常生活動作の改善や、手指の細かい動作の改善を目標にリハビリを行います。また、統合失調症やうつ病といった精神障害や、小児麻痺、知的障害といった発達障害のリハビリにも携わるのが特徴です。
「日常動作の専門家」として、応用的な動作や細かい作業に対応するのが、作業療法士の専門分野といえます。
②理学療法士と作業療法士は「治療方法」が違う
理学療法士と作業療法士は、それぞれの専門分野が違うことから、治療方法や主な就職先が異なります。
具体的にどのような方法で治療を行うのか、おもな就職先はどこなのかなど、相違点をまとめました。
理学療法士の治療方法とおもな就職先
理学療法士は主に物理療法・運動療法・動作訓練を用いて治療を行います。
温熱や電気刺激などの物理的なエネルギーを用いて組織の回復を促します。
□ 運動療法
関節可動域訓練、筋力増強訓練、バランス訓練など身体機能を向上させるための運動を行います。
□ 動作訓練
寝返り、起き上がり、歩行、スポーツ動作などの動作訓練を行います。
<理学療法士の主な就職先>
病院や老人保健施設、訪問看護ステーションのほか、スポーツ関連施設、整形外科クリニックなどがあります。
作業療法士の治療方法とおもな就職先
作業療法士は主に運動機能訓練・日常動作訓練・創作活動を用いてリハビリを行います。
ペグボードやビー玉の箸つかみなど、手指を使った細かい運動の機能を高める訓練です。
□ 日常動作訓練
食事や更衣、トイレといった応用的な動作の訓練を行います。
□ 創作活動
手芸や陶芸、革細工などの創作活動を行い、精神面の活性化や応用能力の向上を図ります。
<作業療法士の主な就職先>
病院や老人保健施設、訪問看護ステーションなどのように、理学療法士と共通するところもありますが、特有の職場として、精神科病院、障害者福祉施設、児童療養施設などが挙げられます。
実際の臨床における理学療法士と作業療法士の関わり
病院や老人保健施設などでは、1人の患者さんに対して、理学療法士と作業療法士が同時に担当して関わります。患者さんの回復を促し、生活レベルを向上させるという共通の目標に向けて、アプローチを行います。
理学療法士と作業療法士は、どのように関わるのか、具体例を挙げてみていきましょう。
・脳梗塞で左上下肢に麻痺がある60代女性。高次脳機能障害で記憶がやや曖昧になりやすい。
・現在回復期病院にて理学療法士と作業療法士がリハビリを行っている。
・退院に向けて、買い物や食事の支度などが自立できることが目標。
理学療法士の対象への関わり
<リハビリ目標>
・店まで徒歩で往復できるための歩行能力、耐久性の向上
・食事動作が安定して行えるよう立位保持能力、バランス能力の向上
<訓練内容>
・関節可動域訓練、筋力増強訓練、立位バランス訓練、歩行訓練
作業療法士の対象への関わり
<リハビリ目標>
・買い物かごを持って、品物を入れる応用動作能力の向上
・食事の支度の際、包丁や箸を扱う細かい手指の動きの獲得
・買うものや、食事手順の記憶を忘れないための高次脳機能の回復
<訓練内容>
・手指巧緻動作訓練、日常生活動作訓練、応用動作訓練、高次脳機能訓練、自助具や福祉用具の検討
それぞれの違い
理学療法士は主に大きな土台となる全身の動きの獲得を、作業療法士は主に細かい応用的な動作や高次脳機能の回復を目指してリハビリを行います。
家で例えると、理学療法士が基礎や柱といった骨格の部分にアプローチするのに対し、作業療法士は壁紙や照明といった装飾部にアプローチするようなイメージです。
理学療法士と作業療法士がお互いの情報を共有し、経過を報告し合いながら関わることによって、より的確なアプローチを提供できます。
理学療法士と作業療法士のダブルライセンスは取得可能
リハビリ業界の中には理学療法士と作業療法士のダブルライセンスを有している人もいます。
先にどちらかの資格を有した状態で、もう一方の資格を取得する場合、養成校での共通科目は免除となり勉強期間が2年に短縮されます。その後、通常と同じく国家試験に合格することで資格取得が可能です。
ダブルライセンスのメリットとしては、双方の目線から患者さんにアプローチができること、幅広い知識が得られることなどが挙げられます。就職の際に優遇される可能性も高いでしょう。しかし、リハビリ点数には反映されないため、給与面にはあまり影響がありません。
また、実際の臨床では、理学療法士も、応用動作訓練や手指巧緻動作訓練を実施できますし、作業療法士も歩行訓練や運動療法を実施できるので、現場においてダブルライセンスの必要性はそれほど高くないかもしれません。より深い知識を求める人は、ダブルライセンスの取得を考えると良いでしょう。
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連携時にはそれぞれの専門性を尊重して
就職先に理学療法士と作業療法士の両方が所属している場合は、お互いの専門性や考え方を尊重し合って関わっていくことが重要です。しかし、理学療法士と作業療法士は考え方が異なるため、意見が食い違ってしまうこともあります。
ですが、それぞれの一方的な考えは、リハビリを進める上であまり好ましくありません。
なぜなら、両者はアプローチ方法や視点が異なるものであり、そもそもの専門分野が違うからです。お互いの専門的な分野に関しては、アプローチを任せたり、意見を導入したりすることで、患者さんのリハビリをスムーズに進めましょう。
一見、理学療法士と作業療法士は同じように思われがちですが、実際はそれぞれ専門性が違い、異なる考え方や、アプローチ方法でリハビリを行っています。
患者さんから「理学療法士と作業療法士って何が違うの」と聞かれたとき、違いをきちんと示せなければ頼りなく思われてしまうかもしれません。
理学療法士と作業療法士の違いについてしっかりと把握し、適切に説明できるようにしておくと良いでしょう。また、自分の専門性を生かして患者さんに関わることが、リハビリをしていく上ではとても大切です。自身の専門分野を誇れるよう、理学療法士と作業療法士の違いについて理解を深めましょう。
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参考
2018年度日本作業療法士協会会員統計資料
統計情報 – 公益社団法人 日本理学療法士協会
理学療法士として総合病院やクリニックを中心に患者さんのリハビリに携わる。現在は整形外科に加え、訪問看護ステーションでも勤務。 腰痛や肩痛、歩行障害などを有する患者さんのリハビリに日々奮闘中。 業務をこなす傍らライターとしても活動し、健康、医療分野を中心に執筆実績多数。
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