臨床工学技士が「やってはいけないこと」とは?法規と安全から考える現場のルール
更新日 2026年06月18日 公開日 2026年06月19日

文:すな(臨床工学技士)
臨床工学技士は医療機器の専門家として重要な役割を担っていますが、業務範囲を正しく理解していないと、意図せず法律違反や医療事故につながる可能性があります。
本記事では、臨床工学技士が「やってはいけないこと」について解説します。この記事を最後まで読むことで、臨床工学技士としての責任の重さと、安全な医療を提供するための具体的な行動指針が明確になり、自信を持って日々の業務に取り組めるようになります。
目次
臨床工学技士が「やってはいけないこと」とは?

臨床工学技士は、法律や安全面から明確に「してはいけない行為」が定められています。まずは業務範囲の基本を整理します。
臨床工学技士の業務範囲の基本
臨床工学技士の業務は「臨床工学技士法」によって厳格に定められており、臨床工学技士法2条には、「医師の指示の下に、生命維持管理装置の操作及び保守点検を行うこと」と明記されています。
業務範囲を超えると何が問題になるのか
医療現場で依頼された業務内容が本来の業務範囲を超えた場合、たとえ善意であっても、業務範囲を逸脱することは重大なリスクを伴います。専門外の行為に関与することは、無資格医療行為として法的責任を問われるだけでなく、結果として患者さんの安全を脅かすことになってしまいます。
法律違反となる臨床工学技士の「やってはいけないこと」

臨床工学技士の行為は、複数の法律によって制限されています。医師法、保健師助産師看護師法(保助看法)、臨床工学技士法の観点から注意点を解説します。
医師法に抵触する行為
臨床工学技士が原則として避けなければならないのは、医師法第17条に規定された「医行為」への介入です。
具体的には、患者さんの状態を医学的に判断する行為(診断行為)や、薬剤の処方・投与、創傷の処置といった「治療行為」が挙げられます。
また、医療機器操作に関しても、臨床工学技士法では前述したように、「医師の指示の下に」業務を行うことが明記されており、医師の指示が必要な操作を独断で行うことは状況によっては法律違反となる可能性があります。
保助看法に抵触する行為
臨床工学技士が医療機器の操作と直接関係のない範囲で、看護師が行うべき観察・判断を伴うケアを独断で行ったり、患者観察や記録を代行したりすることは、内容や施設内の役割分担によっては、保助看法との関係で問題となる可能性があります。
臨床工学技士法に反する行為
無資格者に生命維持管理装置の操作を行わせることは、状況によっては法令上問題となる可能性があります。また、点検未実施にもかかわらず「点検済み」と記録したり、不具合を隠蔽したりするなどの保守点検記録の虚偽記載は重大な違反行為です。正確な点検記録は不可欠です。
現場で注意すべき「やってはいけない行為」

法律違反でなくても、医療安全上問題となる行為は少なくありません。日常業務で特に注意すべきNG行動を具体例とともに確認します。
医療安全上のNG行為
日常業務でもっとも注意すべきは、点検や校正の省略です。医療機器の誤作動や故障につながりやすく、患者さんの生命に関わる事故を引き起こす可能性があります。
また、アラーム設定の独断変更も危険です。医療機器のアラームは患者さんの異常を知らせる重要な機能のため、医師の指示や施設基準にしたがって設定する必要があります。
筆者の体験談:点検の大切さ
| 筆者の体験談ですが、人工透析業務にて装置の静脈圧下限値が「−100mmHg」に設定されていたことがありました。これほど低い値では、万が一抜針事故が発生した場合に警報が作動しにくくなり、患者さんの安全に影響するおそれがあります。 |
すぐに適切な値に再設定したため大事には至りませんでしたが、日常的な機器の設定確認がいかに重要か、あらためて実感したできごとでした。
チーム医療で問題になる行為
医師や看護師との情報共有不足は大きな問題です。医療機器の動作状況や患者さんの状態を適切に共有しないと、他の医療スタッフが誤った判断をする原因となります。独断で対処せず、常にオープンなコミュニケーションを心掛けることが、チームとしての安全性を高めます。
患者対応で避けるべき行為
患者さんへの説明不足は不安や誤解を生みます。医療機器使用時は、目的や操作内容を患者さんが理解できる言葉でていねいに説明することが大切です。また、患者さんやその家族の個人情報を不用意に話すことは守秘義務違反となります。
トラブルを防ぐために臨床工学技士ができること

「やってはいけないこと」を理解するだけでなく、事故やトラブルを未然に防ぐ行動が重要です。現場で実践できる対策を整理します。
法令理解と最新知識のアップデート
法令を正しく理解し、定期的に自身の業務範囲を正確に再確認することが重要です。
特に、2021(令和3)年の臨床工学技士法の改正に伴う業務拡大については、最新の情報を把握し、自身がどの範囲まで実施可能なのかを明確にしておく必要があります。
また、日本臨床工学技士会の研修会や各施設の医療安全研修を活用し、最新知識をアップデートし続けることが大切です。
現場でのリスク管理
医療機器の操作や設定変更を行う際はダブルチェック体制の徹底をしましょう。一人での判断や作業ではどうしても見落としが生じやすいため、可能な限り複数人で確認することが重要です。実施した業務内容は必ず記録に残し、インシデントの予防や再発防止につなげます。
チーム医療での役割明確化
指示系統を明確にし、誰から指示を受け、誰に報告するのかを事前に確認しておくことで混乱を防ぎます。医師や看護師との日常的なコミュニケーションを大切にし、互いの業務内容や役割を理解し合うことができ、より安全で質の高い医療を提供できます。
もし「やってはいけないこと」をしてしまったら

万が一、不適切な行為が起きた場合の対応を知っておくことも重要です。患者安全を最優先とした正しい初動対応を解説します。
患者安全の確保
万が一、不適切な行為を行ってしまった、または発見した場合、最優先すべきは「患者さんの安全確保」です。まず状況を停止させ、患者さんを安全な状態にすることが非常に重要です。安全な状態に復帰させるための処置を最優先で講じる必要があります。
上長・医師へ速やかに報告
患者さんの安全を確保したら、速やかに上長や担当医師に報告します。報告を遅らせると状況が悪化する可能性があるため、迅速な対応が求められます。報告内容は「隠さない・事実ベース」であることが重要です。事実の一部が共有されないと、組織として適切な状況把握や再発防止が難しくなるおそれがあります。
正確な事実ベースの記録
発生した事象は、事実ベースで正確に記録します。感情や推測を交えず、時系列に沿って「いつ」「どこで」「誰が」「何を」「どのように」行ったのかを客観的な事実のみを記載します。
再発防止
インシデントやアクシデントが発生した場合、特に重要視されるのは、事案を隠さず、速やかに報告する文化です。医療安全にかかわる報告体制は、個人の責任追及ではなく、原因究明と再発防止を目的としています。
医療事故の背景には、個人のミスだけでなくシステムの欠陥が存在するとされており、事故が発生した際は、徹底的な原因分析を行い、手順の見直しやシステム改善など具体的な再発防止策を講じます。間違いが起きたときにそれを速やかに報告し、組織全体で改善していくしくみが、患者さんの安全を守ります。
まとめ:安全で質の高い医療提供のためにも法令遵守を
臨床工学技士が「やってはいけないこと」は、法律で定められた業務範囲を超える行為や医療安全を脅かす行為です。診断・治療行為、看護業務の独断実施、医師の指示なしでの機器操作など、法律違反となる可能性のある行為については、十分に注意し、不明な点があれば必ず上長や医師に確認する姿勢が求められます。
また、点検の省略、アラーム設定の独断変更、情報共有の不足など、日常業務における不適切な行為も重大な事故につながる可能性があります。自身の業務範囲を正しく理解し、適切な判断と行動を心掛けることで、安全で質の高い医療の提供に貢献できるでしょう。
参考
臨床工学技士法(昭和62年6月2日法律第60号)
医師法(昭和23年07月30日法律第201号)
保健師助産師看護師法(昭和23年07月30日法律第203号)
医療安全情報 公益社団法人日本臨床工学技士会
医療スタッフの協働・連携によるチーム医療の推進について
著者プロフィール

すな
臨床工学技士
血液浄化・呼吸管理・医療機器管理などの業務を中心に勤務。現在は特定医療法人で人工透析業務に従事している。現場での経験を活かし、医療職のリアルや臨床工学技士の魅力を発信中。













